
第38回東京国際映画祭のガラ・セレクション部門に選出された中野量太監督の最新作『兄を持ち運べるサイズに』が10月31日公式上映され、本作に出演するオダギリジョーと中野監督が舞台あいさつに登壇。約10年ぶりとなる再タッグ作への想いを語り、時に笑いを交えながら撮影秘話を明かした。
原作は、作家・村井理子によるノンフィクションエッセイ『兄の終い』。絶縁状態だった兄の突然の訃報から始まる、家族のドタバタな4日間を描いた実話をもとに、中野監督が脚本・監督を務めた。
主演は、幼いころからマイペースな兄に振り回されてきた妹・理子を演じる柴咲コウ。兄役をオダギリジョー、元妻・加奈子を満島ひかり、そして子どもたちを青山姫乃と味元耀大が演じる。泣き、笑い、怒り、そして愛おしさが交錯する“家族再生の物語”が、11月28日から全国公開を控える。
■ 「読んで何も引っかからなかった」脚本への全幅の信頼を語るオダギリジョーに、中野監督「“ミスターダメ人間”にしかできない役」
舞台挨拶の冒頭、満員の観客を前に中野監督は「映画をたくさんの人に観てもらえるのが一番うれしいこと。東京国際映画祭で上映されるなんて、最大のご褒美です」と感謝を述べた。
一方、オダギリは壇上で客席を眺めながら「なんか良い椅子に座っていますね~。一列目だけですか?」とマイペースぶりを発揮し、早速笑いを誘う。
本作への出演オファーについて、オダギリは「脚本がとても面白くて素晴らしかった。読んでいて引っかかるところがまったくなく、すぐに“ぜひやりたい”と思った」と語る。「すぐに監督へ『素晴らしい脚本を書き上げましたね』とメッセージを送りました」と、その熱のこもったやり取りを振り返った。
中野監督がオダギリに託したのは、だらしなくも憎めない兄という難役。
「どうしようもなく迷惑をかけるけれど、なぜか愛される兄。頭に浮かんだのは一人だけでした」と監督。「オダギリさんはこれまでもダメ人間をやり尽くしてきて、“ミスターダメ人間”ですから(笑)。でも今回は、今まで見たことのない新しい“ダメさ”を見せられると思った」と語ると、客席からも笑いが起こった。
オファーを受けたオダギリは、すぐに「YES!」と返信したという。
■ “自由人”から“脚本至上主義”へ──10年の変化
二人の出会いは、2016年の大ヒット作『湯を沸かすほどの熱い愛』。それから約10年、再び同じ現場に立った中野監督はオダギリの変化に驚いたと明かす。
「以前は、テストごとに演技が違うんです。突然『アイスクリームを食べながらやりたい』とか言い出して、スタッフが走って買いに行ったり(笑)。とにかく自由な人でした」と笑いながら語る。
「でも今回は、台本通りにやるんです。『どうしたんですか?』と聞いたら、『面白いホンはそのままやるんだよ。面白くないものは工夫が必要だけどね』と(笑)」と振り返ると、会場は大きな笑いに包まれた。
オダギリは苦笑しながら「だいぶトゲがありますよ、それ。記者の方もいますからね?」とすかさずツッコミ。軽妙な掛け合いの中にも、10年の信頼関係がにじんでいた。
中野監督への印象を問われたオダギリは、「相変わらず作品に対して誠実で真面目。こちらが“ちょっと面白いかな”と出すアイデアにも、本気で怒ることがあるくらい」と苦笑い。
「それだけ作品に懸ける想いが強いし、完成形へのイメージを誰よりも信じている。本当に真摯に映画と向き合う方」と尊敬の眼差しを向け、監督はそんな言葉に少し照れた様子を見せていた。
作品解説
『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)、『浅田家!』(20)の中野量太監督5年ぶりの最新作は、作家の村井理子の実際の体験をまとめたノンフィクションエッセイ「兄の終い」をもとに描く家族の物語。柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかりら豪華キャストで贈る、世界一迷惑な兄が死んで再集結した家族の、てんてこまいな4日間。家族だからこそ言いたかった想いや、聞けなかった言葉が心を揺らす――。
作品情報
監督 中野量太
1973年生まれ。2016年、商業デビュー作『湯を沸かすほどの熱い愛』が日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞など6部門受賞、国内映画賞で35冠、米アカデミー賞(R)外国語映画部門の日本代表に選ばれる。19年『長いお別れ』がロングランヒットに。20年『浅田家!』が、日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞など8部門受賞。フランスで観客動員25万人を超えるヒットに。独自の感性と視点で、家族を描き続けている。
スタッフ
監督/脚本:中野量太
原作:村井理子
音楽:世武裕子
撮影監督:岩永 洋
照明:谷本幸治
録音:猪股正幸
美術:大原清孝
キャスト
柴咲コウ
オダギリジョー
満島ひかり
青山姫乃
味元耀大
斉藤陽一郎
不破万作
吹越 満
公式サイト https://www.culture-pub.jp/ani-movie/
第38回東京国際映画祭
開催期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:https://2025.tiff-jp.net/ja/
©2025 TIFF
2025/11/02 20:29 配信
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